AIは新たな攻撃手法を生み出したのではなく“待ち時間”をなくしただけ

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AIは新たな攻撃手法を生み出したのではなく“待ち時間”をなくしただけ

急速なAI技術の発展で、サイバー攻撃の手法の進化よりもスピードの向上が顕著だ。これまでの攻撃にあった「待ち時間」が失われる中、防御の要となるSOCはどう対抗すべきか。完全な自律化は正解なのか。 セキュリティ業界では毎年、判で押したような見出しが並ぶ。「攻撃件数が増加」「データ侵害が多発」といった、1年前よりも事態が悪化していることを伝える内容だ。しかし近年の本質的な変化は、インシデントの件数ではなく攻撃が展開されるペースにある。AI技術はサイバー攻撃への参入障壁を下げると同時に、これまでの攻撃にあった「待ち時間」の大半をなくした。 2026年、AI技術に関する論評のほとんどは、AIモデルの「潜在能力」と「実際の運用実態」を混同している。実験環境でAIモデルが実行できることと、現実の攻撃者が大規模に悪用している実態は必ずしも一致しない。この2つは切り離して捉えるべきだ。実際の攻撃で見られる変化は、ニュースの見出しになるほど目覚ましくはないが、はるかに深刻な影響をもたらすからだ。 まずは攻撃者の能力から検証しよう。2025年、AIベンダーのAnthropicは、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃を手掛ける英国の犯罪集団の実態を報告した。この攻撃者は、マルウェアの作成から身代金の要求額設定まで、ほぼ全ての技術的工程で市販のAIモデルを悪用していた。単独では到底遂行できなかった作業だ。かつて習得に何年も要した専門スキルが、今や時間単位で手に入る時代になった。 マルウェアの自動生成は世間の関心を引きやすいが、企業が真に警戒すべき対象ではない。AIツールが生成したマルウェアはまだ未熟であり、適切なシステムを使えば識別可能だ。重大な変化はマルウェア作成の前後のプロセスで起きており、その兆候は外部からはるかに察知しづらい。 1つ目は事前の偵察活動だ。中国の国家支援を受けているとみられる攻撃者が、AIモデルを使って特定の標的を調査する実態が確認された。衛星地上局の端末の物理的な配置や周辺技術、攻撃対象としての価値を特定した上で、ペイロード(マルウェアの実行を可能にするプログラム)の設計案を練るためにAIツールを利用していた。これらは脆弱(ぜいじゃく)性を直接突く攻撃そのものではない。あくまで事前の準備作業だ。しかし、いかなる調査チームであっても自力では太刀打ちできないほどのスピードで準備を進めている。 2つ目は、データを窃取した後の処理だ。2023年に発生したファイル転送ソフトウェア「MOVEit」の脆弱性を突く攻撃では、データの窃取こそ即座に完了したものの、「誰から」「何を」盗み出し、それが「どれほどの価値を持つのか」を分析する作業に数カ月を要した。この遅れこそが、被害組織に対処の猶予を与えていた。もし同じデータを2026年の今AIモデルに投入すれば、「負債や契約、営業秘密に関する情報を、言語を問わず抽出せよ」といった指示に対し、わずか半日で回答を導き出す。AIモデルは英語以外の言語で書かれた機密情報を特定する精度において他のツールを凌駕(りょうが)しており、世界中の市場を危険にさらしている。 マクロの視点で見れば、攻撃者は独自のインフラを着々と構築している。重み付けが公開されている「オープンウェイト」モデルは、最先端のモデルから数カ月遅れた性能水準にまで迫っている。ローカルマシンでAIモデルを実行する「Ollama」などのツールを使えば、攻撃者は自前のハードウェアでAIモデルを稼働させられる。 セキュリティベンダーSentinelOneとCensysが、世界130カ国を対象に2025年10月から2026年1月にかけて実施した共同調査によると、外部認証が設定されないままインターネット上に露出したOllamaサーバが世界で約17万5000台確認された。こうしたセルフホスト型のAIモデルはベンダーの目が届かない場所にあり、利用を差し止められない。北朝鮮の攻撃グループ「Kimsuky」がセルフホスト型ツールやエージェント開発パッケージを収集している実態も判明している。こうしたAIモデルはベンダーの監視対象外にあり、ベンダーが利用を差し止める手だてはない。 これらは決して新しい攻撃手法ではない。これまでの攻撃手法から「一時停止」の時間が取り除かれただけだ。防御側がインシデント対処の頼みの綱にしていた時間的な猶予が失われつつある。攻撃者のペースにどう追従するかが、防御側に課された最大の課題だ。 組織が陥りがちなのが、AIツールを自社のシステムに適用して、攻撃者よりも先に弱点を見つけ出そうとすることだ。攻撃者の視点で自社セキュリティを検証すること自体は妥当だが、攻撃への対処だけで手いっぱいの担当者に、膨大な作業を強いることになる。セキュリティ上の課題を見つけ出すことは本当の障壁ではない。見つけた課題を調査、確認、承認して、安全にシステムへ適用することこそが真の障壁だ。 最初の一歩としてより有効なのは、手元に滞留している業務の処理速度を高めることだ。アラートの優先順位付け(トリアージ)、情報の追加、調査、対処手順書の作成と見直しなどがこれに該当する。全ての作業に最先端のAIモデルが必要なわけではない。ベンチマークの上位を追い求めるよりも、安価で十分に機能するAIモデルに適切に作業を振り分ける方が役立つ。 世間は自律型SOC(セキュリティオペレーションセンター)の概念を誤解している。自律型SOCは購入できる製品ではなく、運用組織が段階的に進化させる成熟度を示すモデルの一形態だ。大半の組織はAIツールをトリアージや調査の補助として使いつつ、最終的な判断は人間が下すという発展の途上にある。論点はSOCをどこまで自動化するのかの度合いではなく、組織が重要な意思決定の制御を保持できているかどうかという統制の有無だ。 分かりやすい例えが飛行機の操縦席だ。パイロットは機体の全ての計器を手動で操作しない。彼らの仕事はシステムを監視して判断を下し、責任を負うことだ。システムの一部として組み込まれるのではなく、システムを俯瞰(ふかん)して、人間が必要な瞬間のために待機している。 これが重要な理由は、単純な計算の問題だからだ。攻撃者が主導権を握る中で、インシデント調査を人間のペースで進めていては当然追い付かない。確証度が高い部分は自動化しつつ、判断が必要な部分には人間を配置する。行き当たりばったりではなく、周到なガバナンス設計を通じて、AIツールと人間の協業体制を構築する必要がある。 対象を絞ったプロジェクト、ソースコードの監査、検出ルールの見直しなどは、こうした協調的な運用を始めるのに適している。この運用モデルがうまく機能すれば、分析担当者の役割は「作業の実行」から「全体の指揮」に移行する。彼らがこれまでに培ってきた専門知識や直感こそが、次に待ち受ける高度な脅威に対抗するための最も強固な土台であり続ける。 攻撃者は、正規のエンドユーザーと同じ方法でAIツールを利用している。質問を投げ掛けて、自力で調べるよりも早く答えを得て、行動に移す。AIツールを最初に導入した組織が優位に立つわけではない。「何をAIに任せ、何を人間が担うか」を見極めた者が有利になる。その決定は、インシデントの真っただ中ではなく、今のうちに下すべきだ。 Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。 IT導入や運用管理に関する技術資料やレポートが閲覧でき、興味や必要性に合致した情報を、的確かつ迅速に入手できます レノボの法人専用タブレット「Lenovo ThinkTab X11 Gen 1」がもたらす現場革新 Googleの業務向けAIエージェント「Gemini Agent」が登場 しかし課題は山積み なぜ「Claude Code」拡張は消しても危ないのか? Cursorで不正版配信 SAPの負荷増に苦しむZeissが「リアルタイム分析」「安定運用」を両立させた道 Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点 なぜMicrosoftは「Rust」を標準言語に? AIで進むC/C++書き換えの課題 Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは

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